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鈴を転がした様な可愛らしい声で笑うが、目が笑っていない。
背後でいちいちビクついている烏たちの様子がおかしいのか、朱漆塗りのぽっくり下駄で危なげもなく石段を登ってくる。
彼女が一歩近づくたびに、烏たちの一団は波が引く様に後ずさる。
朱の一段下までやって来た少女は、蹴上の高さを差し引いても朱の胸のあたりまでしか背丈がなかった。
差し出された大きな包みを、朱は受け取る。
甘い香りに思わず、唾を飲み込むと、霧彦も匂いの正体に気づいたようで『あぶらげ』と小さく呟いた。
「お近づきのしるしに。お口にあうとええけど」
箱の中身がどうやら食べ物のようだとわかり、烏たちは一斉に色めき立つ。
甘い香りとは別に、朱はもう一つ、よく知った香りを嗅ぎ取った。
髪に滲みた、蓬の香り。
「……千都世?」
少女はプイッと顔を背けると「知らんわ、そんなん」と呟く。
どうやら当たっていたらしい。
昔馴染みとの突然の再開に、思わず足が震えた。
烏達はそんな朱を不安そうに見上げている。
「社務所に上がっていって?お茶くらいしかないけど……」
慌てて言った朱だったが、少女はやんわりと首を振って踵を返した。
見透かされた気がする。
「また、改めて寄らせてもらうわ」
にべもない。
「あとな、若い子ぉら暑苦しいの、何とかしいや」
ひどい言われようである。
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