狐火

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ぽくぽくと下駄音を立てて、軽快に石段を下っていく少女の姿を烏たちと見送ったが、待ちきれなくなった数羽に足元を突かれて我にかえった。 「で、何で君達はそんな姿になってるの」 そんな姿と言われても、もともと烏なのだからどうしろというのか。 そんなことを言いたげに霧彦は嘴を尖らせる。見てもわからないけど。 石段で腰が砕けたようになっている烏たちは、千都世の姿が見えなくなると急に元気になったようで、わらわらと朱の足元に寄ってきた。 烏たちは総勢で十五羽ほど。 ハシブトガラスとハシボソガラスが半分づつの、奇妙といえば奇妙な群れである。 先ほどまで上空で騒ぎ回っていた数羽も加わっていた。 朱の言葉にそれぞれガラガラと鳴き始めるが、何しろ烏姿のままのためどうにも要領を得ない。 オムツのとれたガキどもが甘ったれているようでもある。 最年長の霧彦が、烏姿のまま、慣れた様子で朱の肩口に飛び乗る。 やはり嘗められているのかもしれない。 「あの子のひと睨みで、化けの羽根毟られた。」 先ほどまで境内でたむろしていたのは、みんなこの烏たちだった様だ。 今時の中学生たちが、こんな辺鄙な神社に集まるはずがない。 いくら片田舎の寂れた街とはいえ、もう少し賑やかなところがあるだろう。 すき好んで集まるのは烏ばかりというわけだ。
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