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「朝から下のお堂が騒がしかったんだって。新しい神使の方が入られたって、母ちゃんが言ってた」
下のお堂とは、社の石段を下りたところにあるお寺さんである。
それで、みんなで集まって様子を見ていたらしい。
暇なのだろうか。
千都世の稲荷寿司ならば、それはもう美味しいに決まっている。
けれど、本当は会いたくなかった。
この世界のどこかで、朱がどこかにいることを、たまに思い出してくれていたら、それで良かった。
手もとの風呂敷包をちょちょんとつついては、しばらく首をかしげながら何やら考えていたけれど、何とも言えない顔つきで霧彦が言う。
『このお包み、何だかケモノ臭い』
何と答えたものやら。
『あ、狐!』
霧彦に賛同する様に、烏たちが「キツネ、キツネ」と、騒ぎ始めた。
こういう時だけ達者な日本語を使う。
霧彦以外、匂いなんてわかりもしなかったくせに。
非常に姦しい。
「そんなら食べんでよろし」
千都世ならそんな風に言いそうだった。
朱の一声で、烏たちの声はピタリと止んだ。
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