狐火

11/11
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ
「朝から下のお堂が騒がしかったんだって。新しい神使の方が入られたって、母ちゃんが言ってた」 下のお堂とは、社の石段を下りたところにあるお寺さんである。 それで、みんなで集まって様子を見ていたらしい。 暇なのだろうか。 千都世の稲荷寿司ならば、それはもう美味しいに決まっている。 けれど、本当は会いたくなかった。 この世界のどこかで、朱がどこかにいることを、たまに思い出してくれていたら、それで良かった。 手もとの風呂敷包をちょちょんとつついては、しばらく首をかしげながら何やら考えていたけれど、何とも言えない顔つきで霧彦が言う。 『このお包み、何だかケモノ臭い』 何と答えたものやら。 『あ、狐!』 霧彦に賛同する様に、烏たちが「キツネ、キツネ」と、騒ぎ始めた。 こういう時だけ達者な日本語を使う。 霧彦以外、匂いなんてわかりもしなかったくせに。 非常に(かしま)しい。 「そんなら食べんでよろし」 千都世ならそんな風に言いそうだった。 朱の一声で、烏たちの声はピタリと止んだ。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!