霧彦

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足が慄えているのを、どうか、誰も気づいていないといい……。 朱は、石段を上りながら眼裏にちらつく蒼白い(ほのお)を振り払った。 「あぶらげの君は、朱様のお知り合いなのですか?」 「……君はたまに、随分と古風な言い回しをするね」 頻りと感心して見せると、「母の趣味です」という、至ってドライな返答が返ってきた。 彼の母は70年代の少女漫画と古き良き時代劇をこよなく愛しており、時折霧彦が古風な話し方をするのも母親からの薫陶であろう。 「で、あのお狐様は、どの様な方なのです?」 話の矛先を逸らすのに、完全に失敗していた。 「稲荷寿司を作らせたら世界一の腕前の狐さんだよ」 「そうではなくてですね……もっとこう、出自を明らかにするタイプの質問です」 「お母様は白い狐で、お父様は茶色い狐だと聞いたことがあるけれど、本人の色は知らないなぁ。霧彦のご両親は?って…黒でしたね」 「その、小馬鹿にした軽薄さは何なんですか。答えてるようで答えてないのが……こ、こここ…」 「にわとり?」 狡猾(こうかつ)と言いたかったのだろう。 「揚げ足取らないでください。……どうせ説明するのが面倒とか、そんな理由なんですよ。どーせ」
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