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不貞腐れたように「先輩はこ、こーこ?こ…」などとまだぶつぶつ言っている。
狡猾という言葉が本当に似合うのは、あの狐のお嬢さんだと思うが、その言葉は何とか飲み込んだ。
霧彦を筆頭に、社の裏山に住む烏達は、神使である朱の眷属である。
とはいえ皆、朱と何らかの契約を交わしたわけでもないので「自称」である。
容疑者の経歴などにたまに見られる「あれ」である。
この森で生まれた烏の雛たちは、寝物語に親から社の神使の話を聞かされるらしい。
徳を積み、厳しい修行に耐え、お仕えする神様がそれを認めてくださると、烏衣と呼ばれる烏の羽根衣を美しい衣に織り直し、仕立て直して下さるのだと。
その烏衣を纏い、神に代わって人の願いを聞き届け、さらに徳を積む事で力をつける。
それが神使というものである、と。
「烏界のレジェンド」といった感じに言うものも多く、立身出世に目を輝かせる一部の烏達は、少しでも近道がないかと朱への弟子入りを頼み込んで来たりもする。
かと言えば、烏衣を手にいれさえすれば神使になれるのだと思い違い、奪いにくる不遜な輩も居るらしいが、幸い朱のところの烏達はいたって呑気である。
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