霧彦

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烏達は人に化ける事に興味津々で、同年代の烏達とつるんでイタズラばかりするような年頃になると、「自称眷属」の集団である若衆と呼ばれるーー現在は霧彦が若衆頭として一通りは取りまとめているらしい集団の一員として、社の森にやってくる。 若衆の集まりも結構いい加減なものらしいが、そこで先輩烏から、餌場の情報や人に化ける術などを学ぶものらしい。 朱にしてみれば、悪餓鬼生産所のような集まりである。 その問題の殆どの部分は、霧彦にあると行っても過言ではないが……。 化ける事に関しては、霧彦は数十年に一度の逸材で、天性と言ってもいいかもしれない。 何しろ人に化けるのが楽しいらしく、年下の烏達をけしかけては問題を起こすのが常なのだ。 日陰すらない真夏の町営グラウンドで、何やら老人たちが元気にゲートボールに興じていたり、春先の葬儀場の駐車場でのライスシャワー込みの花嫁行列や、季節外れの盆踊り大会などは、だいたい霧彦が関わっている。 去年の暮れには、枯れたススキのまばらな真冬の河原で、薄着の若者達がはしゃぎまわってバーベキューの火加減を誤り肉を消し炭にしていた。 烏達の変化には、再現への無駄な情熱を感じるが、季節感の連動が著しく欠けているのが玉に瑕なのだ。 側からみればほとんどホラーに近い。河原でのバーベキューに遭遇した時は、失礼ながらヒンドゥー教の葬儀か、はたまた壊れた若者達が黒魔術でも始めたのかと疑った。そして、その禍々しさに警察への通報を考えた。
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