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「うわあ、間抜け……」と言うのを、朱は何とか飲み……込めずに呟いてしまったが、誰も気にしていない。
皆嬉しそうに、今にも一飲みにしそうな顔をしている。
「解散!」
霧彦の号令で、数羽を残しそれぞれのねぐらやらどこかへ飛び立って行った。
家族と分け合うのか、こっそり一人で食べるのか。途中で落としたりしないといいけど。
境内に残ったのは、霧彦と歳の近い数羽で、それぞれお気に入りの場所へトコトコと歩いて行くと、思い思いに稲荷を頬張っていた。
みな一様に、一口食べると、何とも言えない顔で朱の方を振り向いた。
ちょっと、大人の味だったのかも知れない。
「霧彦はお皿で食べる?」
そのつもりだったのか、取り皿を三枚用意していた霧彦は、器用に一つづつ皿に取り分けてくれた。
残りの二つは、同じく小皿に盛り、朱が本殿の賽銭箱の上に供えた。
いくら稲荷寿司に目のない烏達でも、これを掠めとる様な不埒な輩は、この杜にはいない。
社務所の縁側で、待ちきれずに半分を口に入れた霧彦は、奇妙な唸り声をあげていた。
「あけるさま、何か入ってる!」
暫くもごもごと百面相しながら味わっていたが、口の中が空になると皿に残されたもう半分を恐る恐る覗き込んでいる。
先程の烏達の反応の意味がわかった。
辛かったのだ。
「実山椒でしょう?」
「なんか、口の中ピリピリする!」
残った半分をもう半分に割って、そっと口に入れた。
「でも、美味しぃい~」
どうやら気に入ったらしい。
意外にも大人舌のようだ。
霧彦は暫く小皿に残ったかけらを眺めていたが、やがて名残惜しそうに口に入れた。
いつも瞬く間に飲み込んでしまう霧彦にしては、珍しい光景だった。よほど美味しかったらしい。
朱は、小皿の上の一つを手に取れずにいた。
関東のものとは違い、薄口醤油の柔らかい色で煮てあるためか、油揚げはツヤツヤとした綺麗な、綺麗なきつね色をしている。
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