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「日の神小の子?」
当たり障りのない事なら問題ないだろうと、軽い調子で声をかけた。
杜の向こうの日の神小学校は目と鼻の先であるので、学校帰りに虫をとったりと、境内で遊んで帰る子供は少なくない。
しかしながら、見るからにそんな歳でもなさそうだし。
「あなたは?」
「え、ええと……社務所の掃除で……」
しどろもどろである。
ちょうど振り返ると、縁側で霧彦が朱を呼ぶところであった。
「朱せんぱーい!お茶が入りましたよ!」
はずかしい。
手に持ったままの稲荷寿司を、彼女が凝視している。
朱がそれに気づくのと、少女のお腹が盛大な音を立てたのはほぼ同時だった。
瞬時に顔を真っ赤に染めると、彼女は参道の方へ踵を返した。
「待って!」
思わず大きな声が出てしまい、少女がばっと振り返った。
「良かったら。お供え物のお残しで良かったら食べていかないかい?」
どうか、新手のナンパみたいになりませんように、と内心ひやひやしながら、朱は続けた。
「神様の食べかけだけど」
茶化した言い方に気づいてくれたのか、見開いた目がふと緩む。
「えっと……」
そこまで言うと、はずかしい~と呻きながら両手で頬を隠し、俯いてしまった。
大人びた外見とは裏腹に、子供の仕草をすると急に子供らしくなる。
もう一度、彼女のお腹が鳴ったのを、朱は聞き逃さなかった。
「霧彦!お茶、もう一つ入れてくれる?」
社務所の霧彦に声をかけてから、少女に耳打ちする。
「お寿司、一つづつね。あの子もこれを狙ってたから」
くすくすと笑ってしまった朱にも嫌な顔をせず、野良猫みたいに後ろをついてくる彼女を、社務所まで連れて帰ると、うちの子も顔を真っ赤にして、お茶を用意していた。
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