ただいま。

　……俺が昔ビンボーだったって話、したっけ？
　おふくろが再婚するまで、俺んトコって親一人子一人の母子家庭ってやつだったんだよな。高校に上がるまでずっと。オヤジが仕事先で死んでから、おふくろマジで大変だったんだよ。なんてったって専業主婦ってヤツで、収入なんかなかったんだから。
　しかもおふくろって働いた経験ほとんどなくてさ。若いうちに結婚したけど、子供が出来るまですごく時間がかかって……三十五歳で俺が産まれて、そりゃもう喜んでくれたんだって。不妊治療の末やっと生まれた一人息子が俺なもんだから、本当に可愛がって育てて貰ったんだよ。

　でも、オヤジは俺が小学校上がる頃に死んじまって。

　おふくろは途方に暮れたんだろうな。これから先もうやって二人だけで暮らしていけばいいのか。自分も四十過ぎてっし、今更仕事なんてできるのかもわかんねーしって。やっぱり、仕事って若い人の方が雇って貰いやすいだろ。今は高齢者向け雇用とかも充実してきたけど、ちょっと前までは全然そんなこともなかったしさ。
　それでも……おふくろは、どうにかハロワとネットで探しまくって派遣の仕事見つけてくれてさ。俺のために精一杯働いてくれたんだ。まだ俺も小さかったから、俺が学校に行ってる時間だけ働ける仕事をどうにか探したらしい。
　苦労したはずだよな。いくらジイちゃん達から支援してもらってるからって、朝の十時から夕方十五時までの仕事で、若くない上ろくに仕事経験も資格もない女が出来て、給料がそこそこで家から近い仕事――なんてそうそうあるもんじゃない。しかもその金で俺達は食っていかなきゃならないわけだ。おふくろは工場のキツい仕事して俺を養ってくれた。本当に……本当に頑張って、女手ひとつで俺を育ててくれたんだよ。……こら、語彙力がないとか言うなよ、昔から作文もスピーチも苦手なんだっつーの。