稀有忌山奇譚

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稀有忌山奇譚

志津丘県、志津丘市の中心街から少しだけ山間部に寄った箇所に、その山はある。 比較的なだらかなハイキングコースとなっている登山道は、地元の幼稚園の遠足にも使われる。 また麓には由緒ある神宮が建ち、観光名所としても名高い。 山頂付近には戦時中に墜落した、米軍戦闘機パイロットを弔った遺影碑が築かれている。戦時中は敵国であった筈の兵士を悼む当時の人々の姿勢に、感涙する者と、疑問を抱く者との思想の差が現在でも取り沙汰される。 遺影碑の地下にはさる高貴な方を埋葬した古墳があったと提唱する学者もいる。 様々な憶測や風聞を前にして、知ってか知らずかの様に、その山は今日も変わらずそこに佇む。 本来は地元の地名を冠した名前の山なのだが、地元民は誰もその名では呼ばない。
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