3 - Escape plan

9/9
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
 「これくらいなら半日も使わないで終わりそうだな」  時計を見ると、一二時半を指している。二人は埃っぽい建物の中を抜け、早々に最初の対象のもとへ赴いた。  「任務完了、これより帰還する」  リストの最後に書かれた名前の上に横線を引き、いつもと変わらぬ棒読みで連絡をした後小型連絡無線をしまった。時間は八時をまわる前。ほぼ予定通りだ。このまま本部へ帰らずにいても脱出にはなるが、それではすぐに場所を突き止められてしまう。  任務中に失踪しても居場所がわかるよう、外にいる間は発信機を取り付けられる。この装置ボス以外に、秘書であるレルファしか取り外す方法は知らない。たとえボスのお気に入りのナハトでも、発信機を外すのは不可能だ。無理に外そうとすれば猛毒の塗られた針が喉に刺さる。勧誘されて入った者の多くは、その事実を知らず餌食となって死んだ。  「全く、これさえなければ本部に帰って騒動起こす必要もないんだが…」  「帰らなければ発信機は外せないんだ。仕方ない」  文句を言いながらナハトは首につけてある発信機を爪で軽く小突いた。親指大の発信機はコツンと金属独特の高い音を発する。  その音を聞きながら、龍輝は目元をこすった。黒い革手袋についていた血が顔につき、赤黒く汚れる。  仕方なくもう片方の手で血を拭ったが完全にはふき取れず、目立たない程度に血痕が残った。それ以上は落ちないと判断した龍輝はフードを被って顔を隠すことにした。  夜である事が幸いし、帰路に着く間に見られる事態は免れた。    「もう、そんなもの顔につけて」  レルファに指摘され残りの血痕を落としていると、やけに建物の中が騒々しい事に気がつく。  「会合なんて言うからもっと静かなもんかと思っていたんだが…。お祭り騒ぎでもしているのか」  「ああ、カモフラージュよ。気にしないで」  つまるところ、会合は既にに始まっているという事である。  二人は目で暗黙の会話を交わし、静かに頷いた。  計画始動だ、と。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!