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弾の切れた銃を捨て、懐からナイフを取り出すと、肉弾戦に持ち込もうと突進した。
それを待っていたナハトは更に体を沈め、音もなくユンジェンに向かって駆け出した。
「貴方の事はね、最初から好きになれなかったわ」
篭目は静かにそう言った。
最初の突進を流すようにかわされ、体勢を崩した龍輝はすぐさま篭目の方に振り返った。絶対的に有利といえる立場に持ち込めたはずの篭目は、何もせずそこに立っていた。
「…何故撃たない?」
「昔、連続殺人犯を逮捕したの。…その男は、民家に押し入っては刃物で家の住人を次々に殺していた愉快犯だったわ」
こちらの言葉に聞く耳を持たないと判断し、龍輝は仕方なく篭目の独白を聞き続けることにした。
「取調べの際、男は笑いながら言ったのよ。『平和ボケした奴らを殺すのは楽しかった』ってね…。己の快楽と身勝手な正義のために、平凡に生きている人を何人も殺した」
無意識によるものか、銃を握る篭目の右手に微かに力がこもる。
「貴方はね、その男と行動がよく似ているのよ。ナハトのそれとは本質が違う、『欲望を満たす為に人を殺す目』をしてる」
静かだった声音が、そこで明確な殺意を露にした。反射的に銃を構えた龍輝だが、引き金を引く暇はなかった。
「皮肉なものね…捨てた過去の記憶を、よりによって一番嫌いな出来事を、もう思い出す事はないと思っていたのに」
振り返った篭目の微笑みは、ひどく冷たかった。
「…僕はその男とは別人だ」
「知ってるわ」
微動だにせず微笑む篭目を睨み、構えていた銃を静かに下ろす。
「あんたがどんな理由でここに堕ちたかなんて興味ないが」
下ろされた銃の代わりに取り出されたものは、四本のナイフだった。
「一度でもその手で人を殺しているなら、同じ人殺しに変わりはない」
刹那、二人の視線が絡み合う。
張り詰めた糸が弾かれたように、龍輝に向けて銃弾が撃ち込まれる。その先に既に龍輝の姿はなく、銃弾は暗闇の影に消えた。
篭目は一歩後退し、懐に見えた鋭い光と大きな影をかわす。かわした勢いで地面に手をつき、背中から後転し距離をとる。
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