17人が本棚に入れています
本棚に追加
2 - Join in Re-ray
三年前の記憶。
鈴鳴洞窟で交わされた言葉は、和解だったのか皮肉の言い合いだったのか、今となってはもう分からない。確かなのは、戻らない龍輝自身の左腕という事実のみ。十字架の下に眠る人物、蒼鵞はそれを手土産に旅立った。
鈴鳴洞窟は、彼の墓からいくらか歩いた場所にある。
暗く先の見えない天井を仰ぎ目を細めると、暗闇が生む透明な水滴が落ちてくる。その雫が、龍輝の頬を濡らして弾き返す。
落ちた雫が誘うように地面に落ち、それにつられて足元にある三年前の血痕に見入ると、頬を濡らした雫が伝い涙のように流れた。
「うああああっ!!」
ぼんやり血痕を眺めていると、静寂を破る青年の声が轟いた。その声に動揺した龍輝は動きが止まり、正面から向かってきた青年に対抗する暇もなく地面に叩きつけられた。青年の手には、暗がりに光るナイフが握られている。
首めがけて突き立てるナイフを、龍輝は何とか避けてみせた。
「何でだよ…」
青年はもう一度強い力でナイフを突き立てようとして、地面の鍾乳石に当たり振動が伝わる。取り落としたナイフは龍輝の左側に落ち、拾い上げる事ができなかった。
びりびりと痛む右手を押さえながら、青年は言葉を漏らした。
「お前さえいなけりゃ、舞乃は死なずにすんだんだ!」
「舞乃…?」
龍輝は頭の中を掻きまわした。舞乃、…そうだ、僕が三年前に殺した少女だ。
「あいつは俺の支えだったのに…。お前がその手で殺した事を忘れたなんて言わせないぞ!」
殺した少女の恋人だと気付いた時には、青年の握るナイフが龍輝の心臓めがけて振り下ろされるその時だった。
青年に馬乗りにされている龍輝は身動きが取れず、そのナイフを避けることはできない。龍輝は咄嗟に強く目を瞑った。
刹那、暗闇を裂くように乾いた音が響いた。雫が乾き始めていた龍輝の頬に、浴びなれた生温かいものがぽたぽたと降ってくる。
瞑っていた目を開けてみると、液体の正体は血だった。
それとほぼ同時に、馬乗りになっていた青年の体がバランスを崩し、龍輝の上にのしかかる。
何が起きたのか分からず、龍輝は青年の体を横に下ろして立ち上がった。
最初のコメントを投稿しよう!