17人が本棚に入れています
本棚に追加
そんな心情を知る由もなく、老人は杖をついて立ち上がり、レルファに何か指示を出した後部屋を出て行った。残された龍輝とナハトも立ち上がり、龍輝はレルファに呼び止められた。
「よろしくね」
「こちらこそ」
龍輝は戸惑いながら返事をした。それを見たレルファは目を細めて笑う。
「あの子が人を連れてきたのはあなたが初めてよ」
「初めて?」
「他の人はよく人を連れてくるの。大体は連れてきた側に見る目がなくて、訓練中や任務中に死ぬけど」
それを聞いた龍輝は、一瞬呆然としてレルファを見る。
「それで連れてこられた奴で残ったのはどれくらいだ?」
「今は二人」
「うん分の二か」
ふとあたりを見回してみると、ナハトはいつの間にかいなくなっていた。レルファ話を止め、タイミングをみてもう一度話を続ける。
「そうだ、貴方どこかに住んでるの?戸籍がないなら住むところも困るでしょう」
「…別に。廃工場で適当に寝るところを見繕っているから、そこを家と呼べないなら根無し草だ」
「十分立派な家ね。それなら大丈夫だわ」
「ない奴はどうしてるんだ?」
「ナハトがその代表かしら。そういう人達はこの建物に住んでる」
軽くレルファの目線が宙を彷徨い、「訓練は明日からね」といって建物の出口まで案内した。
「必ず来る事。それができなければ死あるのみ。それがこの組織の掟だから」
建物の外の道を教えてから、レルファはもう一度微笑んで扉を閉めた。日の傾いた空は赤く焼け、遠くでカラスが鳴いている。
老人とナハトから聞いた内容を頭で反芻しながら、龍輝は帰路についた。
訓練は龍輝にとって厳しいものではなかった。それは龍輝に資質があり、十分組織で生き残れる事を意味していた。
「説明した部分からみて三日はかかると言われていたのに、二日で終わらせちゃうなんて。…貴方今まで何をしてきたの?」
「別に何も…」
全ての訓練を終えた時、特に考えもせずそう言った龍輝を見て、レルファは呆れたような驚いたような顔をした。
「僕はむしろ、こんな場所で明るい顔をしていられるレルファの方が不思議なんだが」
最初のコメントを投稿しよう!