真相

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 明日の朝のフライトで、私は日本に戻らなければならない。日本の警察は、私がなんらかの形で横領に絡んでいることは当然わかっているだろう。出国記録や帰りのチケット予約を調べているだろうから、明日は成田で任意同行を求められるかもしれない。  想定の範囲内だ。  石川課長が検印に使うものとそっくりに作らせた印鑑は、乗継(トランジット)したヒューストンでハンバーガーに包んで捨てた。それとは敢えて違う店で注文し、私の実施印に似せて作った浸透印は、休暇前にこっそり課長のデスクの引き出しの奥に突っ込んで来た。その印鑑にも偽造証書にも、何度かさりげなく課長に触らせ、指紋をつけてある。  騙した顧客はみなまだらボケだ。実際に現金を受け取ったのは私の上司の石川だったと、半年の間に刷り込み済みだった。  私が実行犯だという証拠は何もない。  取り調べにあっても、私は明瞭に答えられるだろう。怯えて震えながらも、決然と。 「横領したのは上司です」 【了】
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