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小銭とはいえ、不正がバレたら懲戒免職は免れない。下手をすれば刑事事件だ。狭き門をかいくぐって入ったメガバンクを、個人客が財布から出せる程度の金額で追われるのはもったいない。
ときどき世間を騒がせる、銀行員による横領事件が億を超える高額なのは、「バカバカしくない利益になる」ものにしか手をつける意味がないからだ。
その手口の多くは、富裕層個人客の預金着服。
億単位の金を、一瞬で自分のものに。担当してみるとわかるが、実際にそれは、笑ってしまうくらい簡単にできる。
難しいのは、それをバレずに継続することだ。
* * *
私はネットのニュースサイトで、メガバンクでの横領事件発覚の見出しを見つけた。
日本にいたら、大変な騒ぎに巻き込まれていたことだろう。容疑者として報じられているのは、私の直属の上司である石川課長だった。
記事によると、石川はこの半年で3人の顧客から合計4300万円を詐取、着服した疑いが持たれている。手口は単純で、高齢の富裕層顧客に偽造証書を渡し、預った金を自分の口座に入金していたというものだ。
容疑者は犯行を否認しているとあるが、自分名義の口座に動かぬ証拠がある以上、無駄な抵抗というものだろう。
銀行員による横領事件にしては金額が小さいが、それは早期発見の賜物であり、このまま発覚せずにいれば被害額は甚大なものになったであろう、と記事は結んでいる。
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