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私は記事を読んでいたスマホから目を上げ、目の前に広がるコバルトブルーの海を見つめた。
沖縄の透き通るような薄水色の海とは違う、深い群青の水面に、白い光の粒がキラキラと輝いている。あちこちにバナナボートやカヤックが浮かび、遠くにはクルーズ船が、上空にはモーターボートに引かれるパラグライダーの姿も見えた。
通りすがりの若い男が、
「Hola! Hi! ニハオ! こにちわ!」
と笑顔で声をかけてきた。私は大きなサングラスをかけているのでほとんど人相はわからないはずだが、長い黒髪と貧相な身体がアジア人だと主張しているのだろう。
ストローが当たる部分だけ口紅のとれた口で笑顔を作り、
「英語もスペイン語もわからないの、ごめんね」
と拙い英語で伝えると、その発音の悪さで諦めがついたのか、彼は何か
「楽しんでね!」
という意味だろうことを言って砂浜を歩き去った。
ビーチチェアに一人で寝転んでいる女を見かけたら、とりあえず声をかけるのがここでの流儀なのかもしれない。
カンクンの人たちはフレンドリーだ。日本を照らすものと同じとは思えない、この地の力強い太陽のような明るさがある。
世界屈指のリゾートに遊びに来ている人たちはみな、金銭的な余裕をにじませ、多忙な日々で疲れた身体をまったりと寛げている。
ホテルの従業員はそんな彼らにひとときの安らぎを与えるのに慣れており、言葉の不自由な私にも、暑苦しくない親密さで明るいあいさつと笑顔を振りまいてくれた。
どう見てもまともな職についているとは思えない、チャラい日本人の集団がバカ丸出しではしゃいでいることを除けば、この地での休暇は蓄積した私の疲労を十分に癒してくれた。
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