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銀行員は年に一度、1週間連続して休暇を取ることを義務付けられている。労働組合による休暇取得促進の意味合いもあるが、一番大きな理由は不正防止である。
かつて、横領事件の犯人は「休みもとらずにまじめに働く行員」ばかりであった。その人には自分の管理する取引を他人に任せられない理由があり、そのために長い休みをとれなかったわけだ。
昭和の横領事件が何年も発覚せず、被害額が膨らんだのはこのためである。
不正防止の観点から、行員を取引から1週間引き離すのは、銀行の内部管理のために必要なことなのだ。
今回の事件は、石川課長の部下により発見されたという。報道では名前は出ていなかったが、入行3年目の森下に違いない、と私は思う。
森下は、先輩行員の休暇中に満期を迎える顧客の定期預金の継続処理をしようとして、その定期預金が存在しないことに気がついた。
きっと凄まじい脂汗をかいただろう。慌てる森下の姿が目に浮かぶ。
顧客から預っていた証書は一見本物だが、台帳で通番を確認すれば、それが半年以上前に「書き損じにより廃棄」されたはずの一枚だとわかったはずだ。
廃棄処理をした実施印は休暇中の先輩、そして検印は上司である石川が捺している。
森下は一体、その事態を誰に相談しただろう。
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