発覚

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 彼を巻き込んでしまったことは、申し訳なく思う。でも、森下の潔白は捜査で必ず明らかになることで、彼の銀行員としてのキャリアに傷をつけることはないだろう。  金を拝借することになった3人の顧客に対しても、もちろん罪悪感はある。しかし被害額は銀行が弁済するし、彼らにとっては死ぬまでに使い切ることのできないあぶく銭なのだ。老後に味わったスリリングな体験を、茶の間の話のタネにでもして許してほしい。  彼らには恨みなどないし、できるだけ無関係な人に迷惑をかけない方法で実行したつもりだった。  横領の操作をしたのは、私だ。  でもその金は全て、石川課長名義の口座に入っている。  彼はいま、警察で取り調べを受けているのだろうか。いや、時差で昼夜が逆になっているはずだから、日本は夜中だ。さすがに寝ているか。  留置場の硬いベッドで。  それとも、身に覚えのない横領罪に震え、眠れぬ夜を過ごしているのだろうか。  思い知ればいい。  私を裏切り貶めた、自らの罪の重さを。  私は自分がセットした時限爆弾が目論見どおり爆発したことに満足し、パラソルの下でゆっくりと目を閉じた。
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