真相

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 私は3つの架空定期のうちの最初の1つが満期を迎える週に合わせて、1週間休暇を取った。同じ課の後輩である森下に休暇中の引き継ぎをし、成田から飛び立ったのが6日前だ。  ニュースになるまでに意外と日数がかかったのは、余罪確認のためだろうか。  状況から考えて、真っ先に疑われたのは私だろう。でも、とっくに調べられたであろう私の口座に怪しい動きなどない。毎月の給料以外には、どこからも入金はないのだ。  現金で隠し持っている可能性はもちろんあるが、私の自宅を家宅捜査するより、石川課長の口座にドンピシャな残高が見つかる方が簡単で早かっただろう。  私が課長とグルになって横領に加担していたなら、不正が発覚する定期の満期日に休暇を取ることなどあり得ない。  私は、担当する顧客の定期預金が、実際には存在しないことなど知らなかった。上司がその金を着服していることなど知らなかった。  そううまく、思ってもらえるといいのだが。 ***  夕方になり、ビーチには強い風が吹くようになった。私はホテルの部屋に戻り、ラッシュガードと腰に巻いたパレオを脱ぐと、ロングヘアのカツラを外した。洗面台で念入りにメイクを落とす。  鏡の中に、少しヒゲの剃り跡の青くなった、若い男の顔が現れた。  人前で女装をするのは私の密かな趣味だが、男の姿に戻る時の開放感も、その楽しみの一部だ。  誇れるような趣味ではないことくらい、わかっている。けれど、別に誰にも迷惑はかけていない。
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