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第三者は見た
中学二年の終わり頃、梓川深弥と言う真面目で頭も切れる男が、現風紀委員長から来年度その座を直々に引き継ぎされるらしい。
そう聞いた時、風紀委員ではあったが下っ端で毎日書類整理に追われている自分にはそれどころでは無かった。
その時、丸切り部外者だった男がトップに立つ不安も無くは無かったが、風紀委員長が決めたのだし、有能な男が委員長になってくれるならそれに越した事は無い。
何より風紀委員には書類整理を得意とする者が圧倒的に少なく、自分のように力仕事よりそちらが得意な人間としてはそちらの面でも有能だという事の喜びの方が大きかった。
何せ現風紀委員長は有能は有能なのだが、書類整理が大の苦手で気付けば書類の山が出来上がり、皆で頭を抱える事態を幾度経験したか。
梓川という男の真面目さと有能さは、それこそ生徒会役員で時期生徒会長である春宮真也と並ぶらしい、人柄で言えば春宮より余程できた男だと聞けばそれはもう期待するというものだ。
そんな事を思っていた僕、花田芳樹。
当人を目の前にしたその瞬間、チェンジ!!と叫びたい気持ちを堪えるのにどんなに苦労したか。
有能だと、真面目だと太鼓判を押されたその男には見覚えがあった。
それは入学して間もない頃。
授業中だが先生に頼まれて授業に使う機材を取りに行くために、庭に面した渡り廊下に差し掛かると、庭には数人の人が倒れていた。
何事かとギョッとして足を止めたのが運の尽き。
奥の方で乱闘が起きていると気付いた時には人が飛んできた。
駆け寄る意味での飛んできた、ではない。
物理的に飛んできたのだ。
それに見事にぶち当たり倒れ込んだ自分が痛む身体を起こすと、そこには一人の男が居た。
機嫌が悪そうな男は、倒れ込んでいる男達と同じ所謂不良だろう。
巻き込まれてはたまらないと、慌てて自分は通りがかりだと説明した自分に眉ひとつ動かさず男は「どうでもいい」の一言を放ちながら、ただそこに居たからという理由で自分の意識も刈り取った。
理不尽に蹴りを入れた男の顔は忘れようとも忘れられない。
いや、ぶっちゃけて言うと怒りや恨みはあれど、顔自体忘れかけて居たが、対面すれば蘇える。
そう、梓川だ。
こんな奴が風紀委員長などと、着いていけるはずもない。
組織の終わりを覚悟して、風紀委員辞めよう。
本気でそう思った。
しかしながら、先程も言ったように風紀委員会は書類整理に常に悩まされている身。
書類整理が得意だった自分がそう簡単に、理由も無く辞めさせて貰える訳もなく……
いや理由はある、めちゃくちゃある。
だが昔はどうあれ現在真面目で通る、次期風紀委員長に昔、伸されました。だから嫌ですなんて信じて貰える訳もない上に自身の恥を晒すようなものだ。
つまり、理由は一身上の都合としか言いようがない。
当然の如く却下。
結果、日々戦々恐々と仕事をこなす事が決定された。
その考えが少し、変わったのは正式に、風紀委員長に梓川が任命されたあの日。
「俺はこんな役には相応しくない未熟な男だ。だがあいつの側に立ち、恥ずかしくもない、相応しい男になりたい。不純だとは思うだろうが、その為には何事も手を抜くつもりは無い。手を貸して欲しい。」
そう言い頭を下げた姿に、少しだけ絆された。
本性を表せこの野郎、常にそんな気持ちで仕事をしていても、あの日の事は人違いかと思ってしまう程度には本当に真摯に仕事をしていた。
まさに、噂通り真面目で有能な男だった。
何がこの男を変えたのか、梓川の口から出たあいつ、が原因なのか。
そんな疑問が解ける頃には、梓川との付き合いは高校にまで及んでいるだなんてこの時は思いもしなかった。
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