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「好きだと、付き合おうと言われた」
「はいはい、夢の話はそこまでにして追加の書類ですよ」
ぼんやりと空を見上げる男の前に、どんと書類の束を置く。
高等部に上がり、二年になれば再び梓川は風紀委員長になった。そして自分は気付けば副委員長に。
流石にこれだけ共に居ればこの男に変な企みがあるなどとは思わなくなっていたし、委員をまとめ上げる手腕に素直に尊敬もしている。
しかし当初の出会いが出会いなので、どうしても少し尖った対応をしていたのが逆に上の者にも意見を言えると捉えられたらしい。
まあ出会いだけではなく、単純にこの男はどこか頭がおかしい。という認識ができたのも理由の一つなのだが。
先程の発言もどうせいつものそれだろう。
「いや夢じゃない」
「ああ、妄想の方でしたか。まだまだ行けそうですね、どうぞ、書類の追加です」
またやってる、と苦笑いの委員達すら呆れるこのやり取り。
梓川には最愛の人が居るらしいと言うのは、かなり早い段階で風紀委員に知れ渡っていた。
なにせ真顔でめちゃくちゃ惚気るのだ。
可愛い、綺麗、天使、美しい、この世の物とは思えない、神様の贈り物、世界の宝、俺の宝……最初はなんの冗談かと思った言葉選びだが、本人かなり本気らしい。
どうやら梓川の片想いらしく、ああまあこんな男嫌だよなと言う気持ちと梓川程の男を袖にするなんてと言う驚きを覚えたが、どうやら相手もまんざらではないらしい。
にも関わらず、付き合っていないのは梓川の中で自身の評価が低過ぎるせいだろう。
以前言っていた、相応しい男になりたいと言っていた相手らしいが、梓川の中ではそれはもう高評価らしく、それに釣り合えるようになるまではと、付き合って欲しいと口にしていないらしい。
恋人らしい触れ合いをした!と言うからついに付き合ったのかと、盛り上がった委員達に夢の中でだと言い放ちドン引きさせた日が昨日のように思い出せる。
だから今日もまたそれだろうと誰も相手にしなかったのだが……
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