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「いや、現実でだ」
「頭打ちました?」
花田が梓川に辛辣なのはいつもの事である。
ついに妄想と区別が付かなくなったのか、と冷めた目を向けられるが当人は痛くも痒くもないらしい。
「打ったが、痛かったからこれは現実だ」
打ったんかい。
しかも確認の為に。
「だが俺はまだあいつに相応しくない、それどころかあいつはどんどんと自身の価値を高めて行く。俺は置いて行かれる一方だ」
そこまで評価される相手とは一体どんな人物なのか本当に謎過ぎる。
「だからまだ、付き合えないって言ったんですか?」
「ああ」
眉間に皺を寄せて言う梓川。
互いが好きなら好きで良いではないかと、疑問で仕方ない。
そりゃ努力する事はいい事だろう、しかしそんな事を言い出して何年になるのか。
「貴方って本っ当に自分勝手ですよね!」
日々惚気を聞かされる身としてもだんだんと苛ついてきた。
「貴方その人の事、本当に好きなんですか?」
「ああ、愛している」
「そうは思えませんけど?」
吐き捨てると鋭い目がこちらを向く。
気持ちを否定する事は許さないと言わんばかりで、周りで聞いていた委員達も騒めく。
そりゃそうだろう、この場に梓川の気持ちを疑う者など一人もいない。
自分だって、嘘だと思った事はない。けれども。
「だってその割に相手の事は考えてあげないんでしょう?それで愛だの云々言われても馬鹿馬鹿しくて仕方ないです」
「お前とはいえ、言葉が過ぎるぞ」
ここまで険悪な雰囲気になった事は未だ嘗てない。
何せこの男は結局、怒るほど周りに興味がないのだろう。
こちらだって個人的に興味がある訳ではない、ただそう、なんだかんだ風紀として関わった時間と、こう言う事を言えるのはこの場では自分位なのだと思えば言わないで居られなかった。
「もし相手の方が貴方より立場が低い……そうですね例えばですがなんの取り柄もない人だとしましょう。貴方はその方が自分は何の取り柄も無いから好きだが付き合えない、と言ったらどうします?取り柄がないなら仕方ないで済ますんですか?」
「そんな事はない、俺はあいつの才能に惚れた訳じゃないあいつだから惚れたんだ!」
「向こうも、そう言う事じゃないんですか?」
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