壊れた日常

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広島市東部に位置する安芸区矢野東へと到着した私達は他ボランティアの方から指示を受けながら流木を運んだり支給されたスコップで土砂をかき分ける等させてもらった。 中上君は知り合いの自衛隊員に話しかけて状況を窺いながら、八面六臂の働きを行う。 丘陵地を開拓して出来た真新しい住宅が、無残な姿で横倒しにされている。場所によっては膝の辺りまで泥で埋まってしまう。放心状態で進んでいると自衛官に「その先は地面がえぐれ、配管がむき出しになっているので近寄らないでください」と忠告を受けた。 ガードレールは溶けた飴細工のように折れ曲がり、私の背丈よりも高い巨石があちこちで転がっている。夏の暑さにやられたわけでは無いのに気持ちが悪くなり、思わずしゃがみ込んでしまう。するとそこに、元々は家に飾っていたであろう先祖の遺影らしき写真が見つかった。こちらを見つめる初老の男性が、とても悲しそうに思えた。思わず拾い上げ、服の袖で汚れを拭き取る。辺りを見回してどうするべきか悩んでいた所で、中上君に声をかけられた。「写真が」と呟くと彼は無言で頷いてそれを受け取り、近くを歩いていた自衛隊員を呼び止めて渡してくれた。 昼になり炊き出しの時間となって皆が集まった後も、私は暗い気持ちを引きずっていた。すると隣の中上君が話しかけてきた。 「被災された方達が見えますか? 皆、一様に疲れ切っています。住む家を失った人、家族を失った人、明日からどう生きるべきか不安で夜も眠れないんです。なのに誰も弱音を口にしない。ギリギリの所で気持ちを保っているんです」 顔を上げ、被災者達を見た。何度もお礼を言いながら、お年寄りが男性の両手を掴んでいる。「クヨクヨしてても仕方ないけぇね」と気丈に振る舞う年配女性の姿。 何という心の強さ。視界が潤み、私は再び頭を垂れてしまう。
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