壊れた日常

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「――トシさん? どうしました?」 出版社の方に名前を呼ばれ我に返る。「すみません、何でもありません」と体裁を繕う。 「それでは、またFAXを送らせてもらいますね。お忙しい所、有難うございました」 相手に続いて頭を下げ、打ち合わせは終了した。頂いた注文用紙を小脇に抱え、横目でレジカウンターを覗く。スタッフが笑顔で接客をしている。その姿に、バイト時代の中上君を思い出す。 私は今でも、たまにメールや電話をかけてみる。しかし返事はおろか既読も付かない。 築山さん曰く、中上君は葬儀中ずっと黙って俯き、拳を握り肩を震わせていたと聞く。その姿に皆、涙してると心を痛めた。 けれど、それは本当に泣いていたのだろうか。 クレームを言われた事に対して「殺してやりたい」と憤慨していた彼。もしかすれば、泣いていたのではなく【怒りに打ち震えていた】可能性も有り得る。最愛の人達を殺され、今も復讐を遂げる為に女店主を追い続けているのだとしたら…… 『行きましょう。そして、生きましょう』 恐怖の始まりを告げる彼の声が、私の耳元で聞こえたような気がした。 ――壊れた日常 完――
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