壊れた日常

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――地元の広島は7月、記録的豪雨に襲われた。平成28年に起こった土砂災害とは規模が違い、死者は200人以上。平和だった町は泥に覆われ、流木や巨石が至る所に散乱。橋の陥落や道路の寸断によって救助もままならず、瓦礫に埋まった家族の名前を呼ぶ者、逃げ場を失い屋根から助けを求める者の声を、願いを、雨は叩き落す。 その日も私は働いていた。仕事場がショッピングモール内という事もあり、外の変化に何も感じられず普段通りレジを行っていると、年配女性のお客様から「私が言うのもおかしいけれど、こんな時に働いていて大丈夫?」と訊ねられた。 仰っている意味が分からず、曖昧に「ええ、まあ」などと返す。一通りレジを終えて事務所へ戻ると、そこには慌てた様子のパートさん達の姿が見えた。何があったのか聞こうと口を開けた瞬間、館内緊急アナウンスが響き渡った。 大雨の影響により交通機関が止まった事、川の氾濫により多くの住宅に被害が及んでいる事。1人のスタッフがツイッターの画像を見せてくれても、他国の出来事のようでピンと来なかった。 それから数時間後、モール自体が閉まり帰宅命令が下される。その時初めて知ったが、今いる建物自体が避難場所になっているらしい。多くの家族がインフォメーションセンター前に集まっているのが見えた。 キャラクターのリュックを背負った女の子が、幼い弟の手を握り不安そうな表情をしているのを今も思い出す。
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