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集めた情報に目を通していると、見知った名前があり手が止まった。彼の名前は宇堂といい、バイト時代に知り合った友人である。
彼は大学を中退し、バンドでメジャーデビューする為に島根から広島へやってきた。高身長でイケメンだったが、自信家で物覚えが悪い部分があり、社員といがみ合う事もしばしば。けれどお互い夢に向かって頑張っている共通点から仲良くなった。
年下ながら私の事を「トシ君」と呼び、酒に酔っては路上でギターをかき鳴らし大声で歌う困った男だったが、憎めない性格をしていた。そんな彼がある日、休憩室で住宅情報誌を見ながら唸っていた。「珍しいもの見てんじゃん」と声をかけた所、「聞いてよトシ君」と情けない表情を向けてくる。
「バンドが解散しちゃってさ、その仲間達とルームシェアしてたんだけど出ていかなきゃいけなくなったんだよ。ひどいと思わない? 今月中に追い出されるんだよ、俺」
理由を訊ねると、バンド解散については「音楽性の違い」などと大物ぶった事を言い放つ。どうせ宇堂がメンバーを怒らせたのだろう。更には家賃を一度も払っていなかったと言うのだから自業自得だ。
「払わないとは言ってない。出世払いのつもりだったのさ」
悪びれる様子もない彼に対して、私は冷ややかな視線をお見舞いしてやる。
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