曰く付き物件

2/20
599人が本棚に入れています
本棚に追加
/191ページ
集めた情報に目を通していると、見知った名前があり手が止まった。彼の名前は宇堂(うどう)といい、バイト時代に知り合った友人である。 彼は大学を中退し、バンドでメジャーデビューする為に島根から広島へやってきた。高身長でイケメンだったが、自信家で物覚えが悪い部分があり、社員といがみ合う事もしばしば。けれどお互い夢に向かって頑張っている共通点から仲良くなった。 年下ながら私の事を「トシ君」と呼び、酒に酔っては路上でギターをかき鳴らし大声で歌う困った男だったが、憎めない性格をしていた。そんな彼がある日、休憩室で住宅情報誌を見ながら唸っていた。「珍しいもの見てんじゃん」と声をかけた所、「聞いてよトシ君」と情けない表情を向けてくる。 「バンドが解散しちゃってさ、その仲間達とルームシェアしてたんだけど出ていかなきゃいけなくなったんだよ。ひどいと思わない? 今月中に追い出されるんだよ、俺」 理由を訊ねると、バンド解散については「音楽性の違い」などと大物ぶった事を言い放つ。どうせ宇堂がメンバーを怒らせたのだろう。更には家賃を一度も払っていなかったと言うのだから自業自得だ。 「払わないとは言ってない。出世払いのつもりだったのさ」 悪びれる様子もない彼に対して、私は冷ややかな視線をお見舞いしてやる。
/191ページ

最初のコメントを投稿しよう!