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では宇動が言ったとされる【考え違い】とは何を指しているのか。私の推論が正しいとすれば、呪われていたのは宇堂の部屋では無い。【アパートそのもの】が呪われていたという事になる。
もし仮に、そんな呪いを防ぐものが用意されていたとしたら。
悪霊を塞き止めていた【骨董品】を、誤って壊してしまったとしたら。
悪夢の中、悪霊は玄関や窓に立っていた。もしかすればあれも【部屋に入りこめない状況】だったのではないか。
噂ではあるが、こんな話も書かれている。
戦時中、あの土地に売春宿があった。かなり賑わっていたそうだが、ある日売春婦に惚れ込んだ男性客が共に心中自殺をしようと火を放つ。建物はあっという間に火の手が周り、多くの犠牲者が出てしまった。
実際、夜中に不気味な呻き声が聞こえたり身体の透けた人間が目撃されているらしい。
――資料を置き、目頭を押さえながら私は溜息を漏らす。不可解な点はまだ残っている。
宇堂の部屋に置かれた姿見……あれを放置にしてアパートを離れた先住人とは何者だったのか。
悪霊を近寄らせないだけの強い力……何よりひっかかるのは、割れた鏡の裏に何やら得体の知れない文字と図形が書かれていた気がする事である。
……それこそ、私の【考え違い】であればいいのだが。
――曰く付き物件 完――
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