壊れた日常

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「生きていれば辛い事は必ず訪れる。けれど、それを乗り越えた人は強い。上官によく聞かされた言葉です。国を守る為、そこに住む人達を救う為に自衛隊はある。けれど、被災者の心を救ってあげられるのは身近にいる人達なんです」 そうだなと私も答えた。目を擦り、今一度壊された世界を見つめる。私も、ここにいる人達も生き延びる事が出来た。ならば命を落としてしまった人達の分まで精一杯生きなければいけない。そっと瞳を閉じ、両手をあわせる。 「行きましょう。そして、生きましょう」 立ち上がり、清々しい笑顔を見せて中上君が言う。バイト時代「自分は接客に向いていない」と悩んだり、クレームを言われた事に対して「殺してやりたい」と憤慨していた彼も成長したなと告げると「それはいいっこ無しっスわ」と苦笑してみせた。 作業は残っている。私は気合を入れなおし、傍に突き刺したスコップを引き抜き泥道を歩き始めた。
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