壊れた日常

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夕方までボランティア活動を行い、本日は解散という事になった。借りていた道具を返却し、駐車している車の場所まで3人で向かっていた時。 不意に、声が聞こえたような気がした。 何と言ったかは分からない。男か女か、子供か大人かも分からない。ただ何となく、そんな気がしたのである。 立ち止まり、辺りを窺う。すると遠くに女性の姿が見えた。顔は分からないが、髪の長い人で白いシャツにスカートを穿いている。目を細くさせて注視すると、こちらに向かって手を振っている様子。 誰かの知り合いだろうか。そう思っていると、中上君が「どうしました?」と声をかけてきた。「いや、あれ」と彼の方を向き、目線を戻す。時間にすれば5秒もかかっていなかったと思う。 女性の姿は、忽然と消えていた。そこで、ようやく気付く。ああ成程、と。 前もって「おかしな事を聞くけど」と付け加え、女性の立っていた場所を指差しながら「あの場所で何かあったりした?」と訊ねてみる。中上君は眉のある位置に手で(ひさし)を作るようにして覗き込み「うーん」と唸る。 「あの辺りは比較的、民家も少なく被害報告も出ていなかったと思います」 これ以上は追求しないほうがいいと判断する私に対して、中上君は何やら考え事をするような仕草を見せ、携帯電話を取り出す。 「悪いけど、先に車へ戻っておいてくれ」 詳しい説明をしないまま、彼女に車の鍵を渡して走り去ってしまう。呆れたような表情をしながら「放っときましょ」と彼女が言うので、私も従う事にした。
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