壊れた日常

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思い返してみる。元々明るい性格だった中上君の彼女は、何故豹変したのか。話を聞き、症状から私はマタニティブルーや鬱を連想した。だがもし、それが……薬物中毒によるものだったとしたら。 例の店はショッピングモール内にドームテントのようなもので設置されていたと聞く。意外と広かったとはいえ、密室の域は超えない。甘い匂いがしていたそうだが、今のニュースを見る限り、麻薬は加湿器から霧状で噴出されていたらしい。犯罪で使われる位なのだから、多少でも効果はあるのだろう。怪しい雰囲気を出している事も、相手を洗脳させる一役を買っているのかもしれない。 実際、中上君は匂いが気に入らない理由で鼻をつまんでいた。それが麻薬を吸い込まずにすんだ結果となった可能性は…… あまりに馬鹿げた発想だ。けれど、そうではないと言いきれる根拠も無い。 彼女は結果として精神的に追い詰められ、引きこもり、見えもしない女店主の姿を見て、子供を失い、そして自ら命を絶った。見ず知らずの人間から気になる事を言われたからと、短期間にここまで最悪の結果を迎えられるものだろうか。 女店主は中上君達に何と言っていた? 手遅れ……いや違う。その前に何かを言っていたはずだ。思い出せ、確か、その言葉は…… 【別れがやってくる】 ……そうだ。当初、私はその言葉を聞いて中上君と彼女の別れを連想した。しかし今となれば意味が変わってくる。 生まれてくる子供と、最愛の者との……【死別】 私は恐ろしく感じた。焦りながら携帯電話を掴み、中上君へ電話をかける。繋がった所で彼に何と声をかければいいか分からない。ただ声を聞かせてほしかった、無事である事を確認したかった。繋がれ、頼む、繋がれ。焦りで両足を動かしながら、私はコール音を聞き続ける。
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