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「じゃあ、無事にスマホを返せた事だし、私、そろそろ行くね。」
微妙な空気を断ち切るかのようにそう言って菜乃花さんが立ち上がったので私も慌てて立ち上がろうとしたら止められた。
「いいのよ。気を使わないで。」
「はい…ありがとう、ございます。」
私が座ったのを見届けてから入り口へ行こうとした菜乃花さんが思い出したようにこちらに振り返った。
「ねぇ…覚えてる?仁くんここのパフェが好きで二人でよく食べたよね?今日も食べて帰れば?なんだかあの頃が…懐かしいわね。」
なんだぁ…
ここのカフェ、仁さんと菜乃花さんは昔から来てたんだ。
そっかぁ。
へぇ…。
そりゃ、元カノだもんね。
仁さんとの思い出があってもおかしくない。
なのに。
なのに…急に芽生えたこのモヤモヤは一体なんだろう?
何故か自分だけがその場に存在しないような感覚になる。
そう、それは間違いではない。
菜乃花さんが私の存在を消したのだから。
この今の一瞬だけは、菜乃花さんと仁さんだけの空間だ。
菜乃花さんはたったの一言で私の存在を消した。
懐かしいわねと。
仁さんと菜乃花さんが付き合っていた頃の時間が今、私の周りをくるくると流れ始めた。
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