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目の前に立つ社長は先程までのラフな格好とは全く違って、見るからに質のいいスーツを身に纏っていた。
一見、華奢そうに見えていたけれどタイトめなスーツは適度に体のラインも出て思ったよりガッシリとしているのがよくわかる。
何よりあのみすぼらしげな無精髭は剃られてあり、うっとおしげな前髪もちゃんとセットされていて自然と後ろへ流してある。
あんなにももっさい出で立ちだったのに今、私の目の前にいる社長はつい見入ってしまうほど整った顔をしていた。
なによーーーー
めちゃ、格好いいんだけど……
「なんだよ、幽霊にでも出会ったみたいな顔すんなよ。」
いや、こんなイケメン幽霊だったらこちらから出会いたいよ。
「サイズ、合ってたみたいだな。」
そうだ、ブラウス社長が買ってきてくれてたんだ。
「あっ、すいません。ブラウス助かりました。お幾らですか?お代金、お支払いします。」
そう言うと、
「いらない。」
と社長。
「でも、そう言う訳には……」
ここのブランドが簡単に買えるような金額でないことくらい私でも知ってる。すると社長は少しだけ考えると、
「ふうん。じゃ体で払って。」
と真顔で言う。
えっ…
「あ、あの…私、そんな差し出せる程の体を持ち合わせておりませんでして…。」
一瞬の沈黙の後、
「それは見れば分かる。そうじゃなくて仕事で返せ。ほら、行くぞ。」
そう言うとさっさと出ていってしまった。
見れば分かるって……
確かにその通りだけど。
それより置いてかれちゃう。
私は慌ててバックを掴むと社長の後を追った。
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