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「うちは今、猫の手も借りてぇくらいなんだよ。お前、猫の手よりは動くだろ?」
「当たり前です!人間、ですから…」
それ相応の仕事は出来るに決まってるじゃない。
「なんだよ、それ。人間ですから…ってまるでどこかの詩人みてぇなこと言ってんじゃねぇよ。ほら、つまんねぇこといつまでも気にすんな。」
そう言うと社長は私の頭をくしゃりとしてからまたスタスタと先に歩き出した。
「あっ、待ってください、社長っ。っとと…」
急いで追いかけようとすると社長がピタッと立ち止まるから危うく背中にぶつかりそうになる。
けれどそのまま社長が振り向くからかなり顔が近付いてしまった。そしてその近い距離で社長が言う。
「それやめろ。社長っての。虫唾が走る。」
か、顔が怖い…
「えっ…でも、」
「でもも下手くれもねぇよ。社長って呼ばれるの苦手なんだよ。仁でいい。いや、仁って呼べ。」
「じ、仁?」
社長、仁って言うんだ…って、
「いやいやいやいや、上司をそんな風に気安く呼べません。せめて名字…」
あれ?
そう言えば社長の名字ってなんだっけ?
「お前さ、自分が務める会社のボスの名前も知らずに入社したのかよ。」
「あは…ええ、まぁ…すいません。」
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