☆ラッキーアイテムは大きめのカバンです!

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打ち合わせも一段落ついて漸く珈琲に口をつける。 なんとなく同じく珈琲を飲む五嶋係長の手元を見るとーーー 「五嶋係長、ボタン、付けましょうか?」 五嶋係長のスーツの袖口にあるボタンの一つが外れかかっていた。 「あっ、しまった。バックヤードを整理している時に引っ掻けてしまって…いいんですか?」 「もちろん。」 私はいつでも持ち歩いている大きめのバックから携帯用のソーイングセットを取り出すと五嶋係長からスーツのジャケットを受け取った。 その時、ふわりと清潔そうな爽やかな香りがしてそんなところにも五嶋係長らしさを感じる。 「へぇ…器用なもんだ。」 五嶋係長が私の手元を見ては先程から感心した声をだしてくれる。 「器用とか…ボタンを付けるくらい誰でもできますよ。」 こんなことくらいで誉められると無性に照れる。 つくづく誉められ慣れてない自分を実感する。 「でもソーイングセットを常に持ち歩くなんてそれだけでも大したもんですよ。」 五嶋係長、私を誉め殺すつもりなのか? 誉められ無さすぎて挙動不審になってしまう。 私がそんな事を思ってるとも知らず五嶋係長は会話を続ける。 「ところで楠原さんはどうして今の会社に?あの日が初めての出社日でしたよね、確か。」 「えっとですね…」 どこでも良かったんです! なんて言えるわけない。 「実は…元々、勤めていた会社を辞めることになりまして、ってまぁ、要はリストラです。」 「リストラ…楠原さん、こんなにも出来る人なのに、その企業、いずれ潰れますよ。」 「そんなこと…」 「バカだなぁ、その会社。こんないい人を手放すなんて。」 いやいや、大企業ですし、私一人辞めたくらいで潰れはしないかと…て言うかこの人、誉めて人を伸ばすタイプなの? このままでは本当に誉め殺されてしまいそうだ。 私はボタンを付ける手を早めた。
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