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「出来ました。他にも取れそうなところがあったので補強しておきました。」
「ありがとうございます。いや、本当に助かりました。独り者だとこういうの誰にも頼めなくて…職場に女性はたくさんいるんですけどね。初めてですよ、付けましょうかなんて言って貰ったの。」
「五嶋係長、さすがに誉めすぎです。ソーイングセットも…私、要は面倒臭がりなだけなんです。」
「面倒臭がり?」
「はい、なにか必要だなって時に手元になくて探さないといけなかったり買わなければいけなかったり…そうなるのが面倒に思えて。だからもしもの時に備えて持ち歩いているだけなんです。ずぼらが高じてこんなことになってるんですよ。」
いつも持ち歩いている大きめのバックを掲げて見せる。
「なるほど。そういう理由でしたか。でも備えあれば憂いなし。素晴らしいことです。現に僕はとても助かった。」
そう言いながらボタンを付けたばかりの袖口を大袈裟に振ってみせる。
五嶋係長って…
優しくて穏やかで気配りが出来て…
「まさに理想の上司…」
「えっ?」
「あっ。」
また…余計なことを言ってしまった…
「アッハッハッ…いやぁ、本当に楠原さんは楽しい人だ。」
「も、申し訳ありませんっ。」
慌てて頭を下げる。
「いやいや、本当に気にしないで。寧ろ、光栄です。楠原さんに理想の上司と言ってもらえるなんて。」
もう苦笑いしか出てこなかった。
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