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「会長…さん?」
「組長じゃなくて申し訳ないね。いやぁ、少し悪ふざけが過ぎた。謝る。」
優しくそういう声にさっきのダークなオーラはもうすっかり消えている。
ただ、眼光は相変わらず鋭いままだけど。
「しかしじいさんもこんな悪ふざけするんだな。」
そう言いながら仁さんが組長…ではなく会長さんにお酌をする。
「いやぁ、今日の酒が旨くてね。」
手に持ったお猪口を口に運び一気に飲み干す。
「楠原くん、君もお代わりを。」
今度は会長さんが仁さんからお酒の入った徳利を取ると私へ勧めてくれる。
「いえ、そんな恐れ多くて…」
誰もが知っている大企業の会長にこんなポンコツな私にお酌させるわけにはいかない。
「お詫びも兼ねて…もあるけれど胡桃沢くんと飲んでいると飲むのは私ばかりでましてやお酌するなんてことがなくてね。久しぶりのこの感じを楽しんでいるんだ。」
あっ…そっか。
仁さん、お酒弱いんだったよね。
「それに楠原くんはお酒、いける口だって?聞いたよ、利酒師の資格を持っていると。」
「はい…そう、ですね。」
将来、何が役に立つかわからないからと一時期、片っ端から資格を取っていた。
利酒師もその一つ。
せっかく日本酒が好きなんだから少し極めてみようかと…
けれど、数ある資格の中でもっとも役に立つことはないだろうなって思ってたんだけど…
役に立ったってこと?
それよりも仁さん、やっぱりちゃんと履歴書見てくれてたってことだよね?
この前の企画営業希望だってことも。
今回の利酒師の資格も。
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