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だけど、別に五嶋さんには話しても良いんじゃないかなって思うのに。
仁さんはこの関係を知るのは最小限で良いって。
「…少し、そんな気はしてたんですよ。」
私が複雑な思いでいると五嶋さんがボソボソっと話し始めた。
「えっ?そんな気って?」
思わず聞き返すと
「ほら、前にもここに来たじゃないですかあの日の帰りのことなんですけどーーー、あなたから無事に駅に着いたと電話を貰ったとき切る寸前に電話越しに胡桃沢くんの声が聞こえたんです。その時にもしかして…って。」
「ああっ!」
あれだ、駅から歩きながら五嶋さんに電話してて…それで仁さんにバッタリ会ってそのままファミレスに行ったんだっけ。
「違うんです、あの時は仁さんがたまたま…ったぁ。」
またもや、テーブル下でコンっと軽く蹴りが入る。
けれど今回は脛にクリーンヒット。
思わず黙りこんでしまう。
すると仁さんがすかさず話し始めた。
「実は…あの時、俺が嫉妬して勝手に駅で待ってたんですよ。こいつがちゃんと帰ってくるだろうかって。俺、結構、束縛するもんな、弥生?」
「ぷはっ」
思わずビールを吹き出しそうになった。
「大丈夫か?照れなくてもいいだろ?ほら、これ使え。」
仁さんが差し出してくれたハンカチを素直に受け取る。
口元を軽く押さえると仁さんがいつも付けている香水の匂いがほんのりした。
いかにも仁さんらしいシトラスを基調とした爽やかな香りだ。
終始優しい目で見てくる仁さんをまともに見ることが出来ない。
それに今、弥生って…
弥生って呼んだ?
耳に残るその響きに何故か胸が騒がしくなる。
そう、これはお芝居。
お芝居なんだから。
混乱したら駄目。
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