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泣く時は決まって鏡の前と決めていた。
トイレでも、お風呂場でも、お気に入りのぬいぐるみの前でもなく、鏡の前。
長いこと大切にしているその小さな小さな鏡は、幼い頃父親が買ってくれた宝物だ。
この習慣がいつからのものなのか、記憶にはないが、ということはつまり物心つく前からのことなのだろう。
常に肌身離さず身につけている鏡は、ある種のお守りのようなものだった。
家の中では勿論一緒、学校に行く時も、旅行に出る時も、どんな時も鏡は私の傍にある。
両親や昔馴染みの友人達からは子供っぽい柄物の鏡は辞めて、そろそろ新しい鏡を買ってはどうかと怪訝な顔で言われることもあるが、答えは勿論ノーだ。
ポケットに収まるサイズ感かつ、私の手にここまで確りフィットしてくれるのは世界中のどこを探してもこの鏡だけだと確信している。
さて、冷静に鏡について語ってみたが。
そんな鏡フリークな私の今を紹介しようと思う。
現在の私は絶賛号泣中だった。兎にも角にも涙が溢れて仕方がなかった。
ぼやける視界の中でキラキラと、泣けば泣くほどに輝きを増す鏡が憎たらしい。
けれど、この現象は始まりの合図。いつもの挨拶だ。
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