患い

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患い

貴方に恋をした それは 紙で指を切る痛みに似ていた 最初は気付かなかったのに ふとした折に痛みを訴える 例えば水に触れた時 微かな痛みを持って 傷の場所を知らすように 血さえ滲まぬ 小さな白い傷 その見目に反して 僅かな苛立ちを覚える程に 痛みだけが鮮明なように 貴方に恋をした その人は 夜空に咲く花火に似ていた ひゅるりと打ち上がり 雷鳴に似た咆哮をあげ 一拍遅れで花が散る その散る間際 一際、輝く 一番、儚い瞬間の花火に 貴方に恋をした それは 泥濘で 靴底に纒わり付く泥に似て 知らぬ間に こびり付いて中々 取れない汚れのように 気付けば確かに そこにあったと解るように 貴方に恋をした 胸の柔い所を 細い釘の先で引っ掻くような ざわざわとした虫の報せのような 不安に似た 胸の落ち着かなさを伴って 貴方に恋をした 浴衣が、よく似合う 花のような儚さを纏う貴方に 木苺のような愛らしい唇で 流行りに取り残された 哀しい歌を口遊む貴方に 貴方に恋をした 桜貝のような爪先を 細く白い指先を静々と動かして たった一人で愛する者の為に 千人針を縫う貴方に その瞳に 僕ではない誰かを映す貴方に 貴方に恋を 恋をしていました。
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