第1章 四月六日①

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第1章 四月六日①

春。カズトは高校三年生になった。期待、緊張、高揚。今の感情を表すには一つの言葉では到底足りなくて、色々なものがカズトのなかで弾けている。 ああ、春なんだな。カズトは脳内で独りごちる。春。長い冬を越えて生命が輝きだす。一斉に芽吹く木々の若葉、色とりどりの花たち。たくさんのカラフルに彩られ、万物は心待ちにしていた季節を躍動する。 カズトが足を踏み入れた新学期の教室は、どこか浮足立っていた。みんな、これから始まる一年に、わくわく、そわそわしていて、教室にざわめきが木霊している。真新しい机、椅子、そして、春休み前にかけたワックスのにおい。整然と並べられた真新しいチョークが、そのざわめきをより引き立たせていた。 黒板にはクラスの席順が書いてある紙が貼り出されていた。青色と黄色のマグネットで四隅を止められている。自分の席とその周辺を確認すると、教室の中央に鎮座しているざわめきに向かって足を進めた。その途中、ふと何かの気配を感じて右側を向くと、同じバレー部のアワノが一番席の前の机に座って、ニヤニヤ笑っている。日向ぼっこをする猫みたいに、目尻をぐいと下がっている。 「お め で と う」
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