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尚も言い募るジョシュアにわざと呆れたため息を吐き、構わずウォレスは口付ける。
ジョシュアの抗いはウォレスの舌先に絡め取られ、口の中へと消えた。
しばらくして、ようやく解き放たれたジョシュアの唇が言葉を紡ぐ。
「妹です」
森の中へと分け入って来た足音の主は、細やかな飾りに彩られた長い裾の白い花嫁衣装を身にまとった、未だ幼さを残した娘だった。
頭を覆う薄絹から透ける黒い髪と大きな黒い瞳とが、濡れた様に艶やかだった。
「ほぅ――、おまえによく似て美しい花嫁御寮だ」
ウォレスが腕の力を弱めたのはジョシュアに妹の姿をよく見せる為であったが、自らもこの、今まで一度も顔を合わせたことがない兄妹の、兄からの一方的な再会を見届けたいという思いもあったからだった。
花嫁、ジョシュアの妹はウォレスとジョシュアとが腕を伸ばせば触れられる近さだったが、二人には全く気が付いていない様だった。
「ロザリィ!こんなところに居たのか!?」
「ジョセフ兄様・・・・・・」
「直ぐ下の弟です」
ジョシュアが言い足す。
ロザリィこと妹のロザリンドを探してか、続いてジョシュアの弟たるジョセフもやって来た。
「ベイリー兄妹が一堂に会したわけだ。ジョシュア、おまえが術符で呼び寄せたのか?」
「まさか!?――それに兄と姉とがいません」
ウォレスのやゆに異を唱えながらもジョシュアは、王都レダプリュスよりも近い隣国ルガリィルへと嫁いだ姉のキャロラインと、ベイリー子爵家の次期当主として妹の輿入れに骨を折ったであろう兄のヘンドリックスとも揃いにそって姿を現しそうで怖くなった。
「どうしたんだ?肝心の花嫁たるおまえがいなければ、祝いの宴が始められないぞ?」
「ごめんなさい。お客様たちが余りにも多くていらっしゃるから、驚いてしまって」
「いずれ遠からず、ヴォ―リオの街長の奥方へとなるというのに、そんなことでどうする?」
うつむく妹の肩を優しく抱く兄たるジョセフはなるほどロザリンドに似ていて、柔らかい笑顔はジョシュアにも似ていた。
「未だまだ先のことですわ。お義父様はお元気でいらっしゃいますもの」
「でも、それなりにお年を召していらっしゃるからね。人の命とは分からないものさ。プレディルの叔父上だって、急に亡くなられただろう?」
「!?」
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