序 ロザリンド セアラ ベイリーの御輿入れ

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 「ロザリィ・・・・・・」 「私はジョシュア兄様にはお会いしたことがないから」 寂しげにつぶやく妹に、ジョセフは優しく静かに語り掛ける。 「ジョシュア兄さんは今はお城でさるやんごとなき御方にお仕えしているから、おいそれとは帰って来られないのだ。聞き分けないといけないよ?」 「妹の婚礼に参列をさせない程、おれは心は狭くないつもりだが」 「ウォレス――」  全く以て不本意だと言わんばかりにつぶやくウォレスに、ジョシュアは心苦しくなった。 妹の婚礼の式へと出ないのはただただ自らの都合、ささやかな矜持だった。  ジョセフは続ける。 「ジョシュア兄さんは何時だって、おまえのことを気に掛けていて下さっている。おまえの婚礼の支度だってほとんどは兄さんが整えてくれたのだ。落ち着いたら手紙を書くといい。きっと喜んで下さるよ」 「ジョセフ・・・・・・」  ジョシュアは全く聞こえないとは分かっていても、三才違いの弟の名を口に出さずにはいられなかった。 「それに兄さんは七つの頃に養子へと出されてからずっと、プレディルの叔父上に仕えてきたんだ。その働きに報いて子爵の位を遺して下さったのだと私は信じている。ジョシュア兄さんはベイリー家の、私の誇りだ」 「・・・・・・」  ジョシュアは夢か幻を見ているかの様に、弟の言葉に耳を傾けていた。 妹たるロザリンドにも、ジョセフの言葉は確かに伝わっていた。 「わかりました。ジョシュア兄様にお手紙を書きますわ。私がどれ程、兄様に会いたいか。そして、どれ程ありがたいと思っているかきちんと伝わる様なものを」  晴れやかな笑みを浮かべて兄たるジョセフへと誓うロザリンドの想いはもう既に、手紙へとしたためずともジョシュアへと届いていた。 「さぁ、戻ろう。ロザリィ。花婿殿が心配しているぞ」 「はい。ジョセフ兄様」  素直に兄へとうなずく妹を伴って、ジョセフは来た道を戻って行く。 結局最後まで、二人はジョシュアとウォレスとには気が付かなかった。 「――今は無理でも、いつの日か必ず会ってやれ。これは主からの(めい)だ」 「はい。いつか必ず。必ず、きっと。誓います」  ウォレスへとそう応えるや否や、ジョシュアは話すことが出来なくなった。言葉は全く涙へとすり替わった。  うつむき声を殺して泣くジョシュアの顔を、伸びてきたウォレスの手が上へと向かせた。 厳しくも温かいウォレスの声が告げる。
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