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 気を失っていたのは、ほんの一瞬だったようだ。頬にアスファルトのざらついた感触がある。  俺はいつの間にヘルメットを脱いだんだろう。  ひどく身体が重い。ほとんど動くことができない。目だけを動かすと、数メートル先に真っ二つに割れた俺のヘルメットが転がっていた。さらにその先には、原形も留めないほどひしゃげた隼が倒れている。ぐにゃりと曲がった前輪がカラカラ、カラカラと音を立てて回っている。  そうか……吹っ飛んだのは俺のほうだったか。  それにしても寒い。酷く寒い。  ん?   この頬に感じるぬくもりは何だろう?   ああ、暖かい。  心臓の鼓動に合わせて広がって、俺を包み込んでいくようだ。  そのねっとりとしたものを掻き寄せた。  幼いころ母親の胸に抱かれていたときのような安心感に包まれる。  こんな穏やかな気持ちになるのはいつ以来だろう。  暖かい。  何もかもがどうでもよくなった。  もう、つらいことも寂しいこともない。  ただ、己の身体から流れ出すぬくもりに、身を任せた。
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