訪問者

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 待ってくれ、寝室を調べてくれ、と泥棒のわめきごえが響いた。その声が遠ざかるのを聞きながら、ぼくはクローゼットの中でじっと身をかがめていた。  暗闇で膝を抱えて蹲っているのは、あの彼には似合わない。情けない自分にこそお似合いだ。  でも――とぼくは、彼の真新しいスニーカーをぐっと抱きしめた。そして、心の中で彼の言葉を強く反芻した。  たしかにいつかは捕まってしまうだろう。でもそれは、今ではなくまだ先の話なのだ。その時まで、体をはって生き抜いてやる。彼のように――彼のかわりに、かっこよく生きてみせる。  ぼくはスポーツバッグの中身を確認した。他の家から盗んだのであろう現金や時計、宝飾品などが詰め込まれていた。本物かどうかわからないが免許証まであった。当面なにもしなくともこれだけで暮らしていけそうである。自信と勇気がむくむくとわいてきた。  泥棒のスニーカーを履く。少し大きめだったが、靴紐をぎゅうぎゅうと締めたなら、走ることも跳ぶこともできそうだった。
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