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黒く長い髪と、血のように赤い眼。 外国人の彼女は、10年前と会った時と同じ姿だった。 けれどその人は成長していた。はじめて会った時は、わたしと同じ歳の女の子に見えた。 今は違う高校の制服を着ている、女子高校生だ。 「…受け入れてしまったのか」 わたしは黙って頷いた。 その人は、犬神を作る為に毎日ここに訪れたわたしに声をかけてきた。 その呪法は、不幸になると―。 だから記憶を消すと言って、わたしの額に手を触れさせた。 そこから犬神の記憶が、わたしの中から消えてしまった。 だけど完全に犬神との縁が切れたワケではなかった。 だからこそ、わたしは時々になってしまったが、ここを訪れていた。 時と共にわたしの犬神は成長していき、ついには眼に見えるまで成長してくれた。 それまで何となく気配は感じていた。 その正体を知らずとも、怖くはなかった。 「…後悔は、していないのか?」 わたしは深く頷いた。 犬神も同じように、頷いた。 「そうか。なら、私は何も言うまい」 その人は深く息を吐くと、その場から去った。 わたしは歩いて、犬の首を埋めた場所に立った。 体は近くの森の中に埋めた。 目印として、大きな石を墓石代わりに置いた。 でも、用があるのはこの首だけだ。 ここら辺には神社はなく、近所の人達は皆、何か用がある時はこの神社を訪れる。 神社本殿に向かう道の真ん中に、犬の首は埋めた。 この10年で、数え切れないぐらいの人間に踏まれ続けた犬の首。 おかげで立派な犬神になった。 わたしの命を削りながらも、願いを叶え続けてくれる、忠実なわたしの犬。 わたしだけの、犬。 わたしは犬神に、微笑みかけた。 黒き犬神は、わたしを見て、嬉しそうに尻尾を振った。 ―これからは、ずっと一緒だよ。 そう赤き眼が語っているようだった。 あの人と同じ、赤き眼で。 【終わり】
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