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back(背中)
少女は立ちどまる。
M4ライフルの銃口は彼女にむけられていた。
「通訳だ、誰か通訳を呼べ!」
ここは中東のS国。アメリカ軍の撤退が一か月前に議会で決定されていた。
J曹長は腹立たしかった。俺たちはこの国を去る。なのになぜ、今さら自爆テロを行うのか。
「間違いないのか!」
「はい、K伍長が衣装の下に爆破物らしきものとコード類を目撃しております」
年若いR上等兵は、同じく少女に銃口を向けたまま答えた。
「らしきものだと!」
J曹長は少女を観察した。年は十歳前後だろう。ここからでは全身を覆うチャードルの下に隠し持っているものは判らない。もしそれが爆破物でなかったら・・・。
浅黒い顔、太い眉、まだ幼さが残っている。銃口を向けられているのに少女は毅然とし怯えてはいない。
「通訳のアン特技兵長です」
後ろから女の声がする。
この危険な任務を女に託すのか。いや・・・女なら少女も納得するかもしれない。J曹長は少女を狙ったまま、顔も見ぬ通訳に指示を出す。
「あの少女は自爆テロをもくろんでいる可能性がある。説得出来るか?」
アンは少女を見た。この地に赴任して3ヶ月。その間子供たちと触れ合う機会は度々あった。どんな悲惨な状況でも子供たちはよく笑う。それは万国共通だと彼女は思う。だが、この国には笑うことを拒む子供がいた。
「判りました」
「あの少女が少しでもこちらに近づいたら射殺する」
アンはことの重大さをあらためて知る。だが彼女はひるむことなく少女に向かって少しずつ歩み始めた。
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