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「(大丈夫よ)」
彼女は張りのある声で語りかけると、腰のフォルダーから拳銃をつまみあげ高々とあげた。
「(武器はない)」
アンは拳銃を乾いた地面に置くと両手を挙げた。一定した歩みが乱れることはない。
彼女は笑顔を作りながら自分が軍服を着ていることを悔やんだ。私は敵ではない。
「随分度胸のある女だ」
J軍曹は思う。だが長年の戦闘経験が彼を不安にさせる。危険過ぎる。だがここは見守るしかない。
アンは考える。刺激せず、少女の態度を軟化させるにはどうすべきか。
「(私の名前はアン。あなたの名前は?)」
少女は答えない。距離は縮まり少女の硬く結んだ口元がアンには見えた。とにかく起爆スイッチから手を遠ざけよう。
「(私は手を挙げている。あなたも手を見せてくれない?)」
少女は、彼女が来るのを望んでおらず、突然叫ぶ。
「私の名前はアーイシャ。こっちに来ないで」
アンは立ちどまる。厳しい口調だが、本来は優しい声だと思う。彼女は一度深呼吸をした。
少女と語り合う扉は開かれたのだ。たとえそれが困難であっても。
「(大丈夫。わたしはなにもしない)」
その言葉とともに彼女は微笑んだ。それはアンの本心から出た慈しみだった。
微笑みはアーイシャに届いたのだろうか。少女から緊張が消えたかのようにアンには思えた。
「アーイシャ!」
どこかで男が叫んだ。見ると父親と思しき男が殺気に満ちた視線でアーイシャを見ていた。
なぜこの国の父親は娘に強制するのか。娘はあなたの道具ではない!
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