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少女は、父の言葉を恐れ、僅かに後ずさりする。幼いアーイシャは、絶望の渦に巻き込まれていた。
「(とまって、アーイシャ!)」
近寄ろうとしたアン特技兵長に、J曹長が叫ぶ。
「伏せろ!」
アンは目覚め、辺りを見渡す。
草原だった。少し先には小さな川が流れており、対岸の小高い丘には、楡の巨木が雄々しい姿でアンを迎えていた。
知らない景色だがなぜか懐かしい。
アンは自分の心が軽くなっていることに気付く。それは長い間忘れていた晴れやかさだ。ここは全てが心地よかった。柔らかな日差し。そして鳥たちの囀りが聞こえる。
見ると楡の木の下に人影が見えた。
「父さん、母さん」
彼女は両親の元へ急いだ。だが川辺で立ちどまる。彼女にはその理由が判らなかった。覗きこむと、澄んだ流れの下は砂利で、踝ぐらいの深さしかない。だがアンはまだ躊躇していた。見かけは清らかだが、危険が潜んでいるように彼女には感じられた。
「どうしたんだい、アン?」
父は普段と変わらない。
「怖いの」
父は快活に笑うとズボンの裾をまくりあげ始めた。
そばで母が笑ながら冗談を言っている。
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