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私は気が付ないうちに、堪えていたはずの涙を流しながら白玉を食べていたようで、それは奇妙に思った店主が声をかけてくれた。
「すみません、ちょっと昔を想いだしてしまって。」
「よろしければ、お聞きしてもよろしいですか?」
「つまらない話ですよ、私がこの世で一番愛した女性と、お金が無かった学生時代に初めて二人で旅行したときのお寺で出されていたお汁粉の味にそっくりでしてね。」
「当時は本当にお金が無かったんですよ、だからお汁粉も二人で一つ、ちょうどこのような竹で作られたスプーンでいただきました。」
「でもね、楽しかったですね。」
「お互い若かったのもありますが、節約のために観光地から観光地まで無駄に歩いたり、お酒を我慢したりと、今では考えられませんが、それでも凄く楽しかった。」
「それで、そのお寺のお汁粉はほんのり甘く、粒が不ぞろいの豆の味が特別濃いお汁粉でした。」
「一緒にだされたお茶も、こんな感じでぬるく、甘くなった口をサッパリと流してくれたんですよ。」
「素敵なお話しで、その女性とはご結婚なさりましたか?」
「はい、私が今の会社に勤めた理由も簡単ですよ、直ぐに当時の彼女と結婚したかったからです。」
「でも、そんな妻に先立たれてちょうど今週末で二年になります。」
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